木口雄人 (2011年受講当時 京都市立芸術大学大学院)

 

僕が初めてミュンヘンを訪れたのは、2011年の夏。いえ、ュンヘンどころか、海外へ出ること自体が人生で初めてでした。今でも、2011年の夏は、僕にとって特別なものです。

 

2011年の夏、友人からミュンヘン音大の夏期セミナーの話を耳にしました。

当時大学4年で、大学院入試も控えていたので、・・・夏は時間が無いし、お金もないし・・・、と、当初は参加しない方向でいました。寧ろ、セミナーとか、自分とは縁遠い話だな、と他人事のように思っていました。

 

しかし、申込締切期限が迫ってきた頃、「もう4年生だし、せっかくなら行ってみようかな」と、ほんの少しの好奇心が湧き、参加することにしました。この”気まぐれ”は僕にとって最高の決断でした。

 

その夏のセミナーでは、今までとは全く違う、異国でしか掴めないであろう充実感を味わいました。新しい仲間とも出会うことが出来た、最高の夏となりました。そして、今回の春のセミナーです。前回のセミナーを受け、絶対にもう一度セミナーに行く!と決めていたので、前回とは違い、不安もなく心から期待に胸を膨らませてドイツに降り立ちました。

 

ベッケラー先生は、前回夏のセミナーでもお世話になり、久しぶりの再会だったのですが、先生は変わらず朗らかで、お会いした瞬間に、あの水に溶けるような気分になるのはベッケラー先生が持ってらっしゃる不思議なパワーです。レッスンは、先生がドイツものが得意とお聞きしたので、ベートーベン等を中心に、”音楽のキャラクターをどう活かすか”、というポイントに着目し、それをいろんな角度から手助けして下さるレッスンをして頂きました。

 

ベッケラー先生のレッスンを受けていると、弾くことに一生懸命だったのを忘れ、耳を澄まして音楽の核心に触れることが出来るんです。あの瞬間・感覚は言い表せない充実感で一杯になります。「早くレッスン終わったら練習したい!」という意欲に何度もレッスン中にかられました。そして、音楽に合点がいったときのベッケラー先生のスマイルはプライスレスです!

 

シェーファー先生は、ベッケラー先生とは対照的に、ダイナミックな・ドラスティックな作品が得意とお聞きしたので、プロコフィエフのソナタ第4番等を中心に見ていただきました。先生には全3楽章から成るソナタを見ていただいたので、ソナタ全体に立体感をもたせる構築力を付けるレッスンをしていただきました。テンポ設定にしても、アーティキュレーションの扱い方にしても、驚きの提案をしてくださるのですが、その裏付けは納得するものばかりでした。そうした構築力を学ぶうちに、不思議で巨大な存在感を持つソナタに仕上げることが出来ました。

 

また、シェーファー先生は、20代の僕なんかを遥かに凌ぐ若々しさ・陽気さで、演奏もレッスンもされ、コミュニケーションをしているだけで本当に刺激だらけでした。僕は今回シェーファー先生は初めてレッスンを受けさせていただいたのですが、ベッケラー先生・シェーファー先生、お二人とも、本当に楽しいレッスンをしてくださり、音楽の本質をたっぷり体験させてくださる素敵な方でした。こうした出逢いに本当に感謝です。

 

修了コンサートもセミナーの最終日に行われました。本当にたくさんの方が来てくださっていました。ドイツの方たちは、前回も思ったのですが、本当に楽しんで聴いてくださりますし、楽しみに聴きに来てくださっています。それは、入場した時の拍手のテンションから日本との違いがわかるほどです。そして演奏が終わると、盛大な拍手はもちろん、声までかけて下さるかたもたくさんいます。これだけ気持ちよく音楽ができるので、「あ、やっぱり音楽って素敵だな」と再認識することも出来ました。

セミナー後は、ここで出逢った仲間たちと朝まで喋り明かしました。ここで出逢えた喜びを互いに噛み締め、また夏に集まろう、と皆で約束を交わし、セミナーを終え、帰国しました。

 

あまり上手な文章は書けない方ですが、ありのままの気持ちを綴りました。

 

最初にも書きましたが、このセミナーと出会い、参加したことは、”気まぐれ”という偶然でしたが、それは今では”必然”だったと思っていますし、今の僕には重大な分岐点になっています。

 

音楽留学を少しでも考えている方。今こそ、その重たい腰を持ち上げて、第一歩を踏み出すときです。案外、踏み出すと病み付きになって足を止められないものです。その、動き出す一歩を、気まぐれでもなんでもいい。ただ踏み出して欲しいんです。そして、それが貴方にとって、素敵な世界への幕開けになることを願って止みません。

 

最後になりましたが、このセミナーで忘れてはならない、企画・運営・通訳をして下さった小長さんに最大の敬意を表して、感謝申し上げたいと思います。僕たち若い音楽家にこんな素敵な世界を体験する機会を与えてくださり、本当にありがとうございます。素晴らしいセミナーでした!

 

このセミナー生であることを心から誇りに思います。